[行列解析7.5.2]補題:アダマール積に関するトレース表示

7.5.2 補題:アダマール積に関するトレース表示

行列 \( A, B \in M_n \) およびベクトル \( x, y \in \mathbb{C}^n \) が与えられているとする。ここで、\(\mathrm{diag}\,x\) および \(\mathrm{diag}\,y\) は、それぞれの主対角成分に \(x\) と \(y\) の成分をもつ \(n \times n\) の対角行列である(式 (0.9.1) 参照)。このとき、次が成り立つ。

x^{*}(A \circ B)y = \mathrm{tr}\!\big((\mathrm{diag}\,\bar{x})\,A\,(\mathrm{diag}\,y)\,B^{T}\big)

証明: \(A = [a_{ij}]\)、\(B = [b_{ij}]\)、\(x = [x_i]\)、\(y = [y_i]\) とする。このとき、 \((\mathrm{diag}\,\bar{x})A = [\,\bar{x}_i a_{ij}\,]\) であり、また \(B\,\mathrm{diag}\,y = [\,b_{ij}y_j\,]\) である。先行する演習問題の結果を用いると、次のように計算できる。

\mathrm{tr}\!\big((\mathrm{diag}\,\bar{x})A(\mathrm{diag}\,y)B^{T}\big)
= \mathrm{tr}\!\big(((\mathrm{diag}\,\bar{x})A)(B\,\mathrm{diag}\,y)^{T}\big)
= \sum_{i,j=1}^{n} (\bar{x}_i a_{ij})(b_{ij} y_j)
= x^{*}(A \circ B)y

したがって、所望の等式が得られる。

演習: ベクトル \(x, y \in \mathbb{C}^n\)、および行列 \(A \in M_n\) に対して、次を示せ。

(xy^{*}) \circ A = (\mathrm{diag}\,x)\,A\,(\mathrm{diag}\,\bar{y})

演習: もし \(A \in M_n\) がエルミート行列(特に半正定値行列)であるならば、なぜ \(A^{T} = \bar{A}\) が成り立つのかを説明せよ。

次の定理の最初の主張は、シュール積定理(Schur product theorem)である。


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