7.3.11定理:同じ自己随伴積をもつ行列の関係
\( n, p, q \) を正の整数とし、\( p \le q \) とする。 \( A \in M_{p,n} \)、\( B \in M_{q,n} \) とする。 このとき、次の条件は同値である。
(1) \( A^{*}A = B^{*}B \)
(2) 直交正規な列をもつ \( V \in M_{q,p} \) が存在して、 \( B = V A \) が成り立つ。
さらに、もし \( A \) と \( B \) が実行列であるなら、\( V \) も実行列としてとることができる。
(証明)まず、もし \( B = V A \) ならば、
B^{*}B = A^{*}V^{*}V A = A^{*}A
が成り立つ。 逆に、もし \( A^{*}A = B^{*}B \) ならば、式 (7.3.2) の表記を用いると次のように書ける:
A = V_{1}\Sigma W_{1}^{*}, \quad B = V_{2}\Sigma W_{1}^{*}
ここで、\( V_{1} \in M_{p,r} \)、\( V_{2} \in M_{q,r} \) は直交正規な列をもつ行列である。 \( p \lt q \) の場合、次のように拡張行列を定義する:
\hat{V}_{1} = \begin{bmatrix} V_{1} \\ 0 \end{bmatrix} \in M_{q,r}
(もし \( p = q \) なら拡張は不要である)。 このとき \( \hat{V}_{1} \) も直交正規な列をもつので、式 (2.1.18) によりユニタリ行列 \( U \in M_q \) が存在し、 次が成り立つ:
V_{2} = U \hat{V}_{1}
\( U = [V \; Z] \) と分割し、\( V \in M_{q,r} \) とおくと、
V_{2} = U \hat{V}_{1} = [V \; Z] \begin{bmatrix} V_{1} \\ 0 \end{bmatrix} = V V_{1}
したがって、
B = V_{2} \Sigma W_{1}^{*} = V V_{1} \Sigma W_{1}^{*} = V A
が得られる。 また、もし \( A \) および \( B \) が実行列であるなら、式 (7.3.2) と (2.1.18) から \( W_{1}, V_{1}, U \) も実行列としてとることができる。
(補足)この定理の典型的な応用として、特定の構造をもつ行列 \( X \) が与えられた場合に、 半正定値行列の性質を用いて \( X^{*}X = Y^{*}Y \) と因数分解し、 特定の形をもつ \( Y \) を得るという手法がある。 もし次元が適切に対応していれば、直交正規な列をもつ行列 \( V \) が存在して \( X = VY \) が成り立つことが結論される(例として式 (7.3.P34) を参照)。
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