7.2.7定理:半正定値行列の因数分解と階数の関係
\( A \in M_n \) がエルミート行列であるとする。
(a) \( A \) が半正定値であることと、ある \( B \in M_{m,n} \) が存在して
A = B^{*} B
が成り立つことは同値である。
(b) \( A = B^{*}B \) (\( B \in M_{m,n} \))であり、\( x \in \mathbb{C}^n \) とする。このとき、\( A x = 0 \) であることと \( B x = 0 \) であることは同値である。したがって、 \(\operatorname{nullspace} A = \operatorname{nullspace} B\) であり、\(\operatorname{rank} A = \operatorname{rank} B\) が成り立つ。
(c) \( A = B^{*}B \) (\( B \in M_{m,n} \))であるとき、\( A \) が正定値であることと \( B \) が列フルランク(full column rank)をもつことは同値である。
証明
(a) もし \( A = B^{*}B \) が成り立つとすると、任意の \( x \in \mathbb{C}^n \) に対して
x^{*} A x = x^{*} B^{*} B x = \| Bx \|_2^2 \ge 0
が成り立つので、\( A \) は半正定値である。逆に、そのような分解は例えば \( B = A^{1/2} \)、\( m = n \) とすれば得られる。
(b) \( A x = 0 \) ならば、
x^{*} A x = \| Bx \|_2^2 = 0
である。逆に \( Bx = 0 \) ならば \( A x = B^{*} Bx = 0 \) である。したがって、\( A \) と \( B \) は同じ零空間(null space)をもち、したがって同じ零化次数(nullity)と階数(rank)をもつ。
(c) \( A \) の零化次数が 0 であることと、\( B \) の零化次数が 0 であることは同値であり、それはすなわち \( \operatorname{rank} B = n \) と同値である。よって、\( A \) が正定値であるのは \( B \) が列フルランクのときに限る。
なお、この定理の精密化は (7.2.P9) を参照せよ。
行列解析の総本山

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