7.2.6定理:半正定値エルミート行列の k 乗根
\( A \in M_n \) がエルミートかつ半正定値であるとし、\( r = \operatorname{rank} A \)、および \( k \in \{2, 3, \ldots\} \) とする。
(a) \( B^k = A \) を満たすエルミート半正定値行列 \( B \) が一意に存在する。
(b) 実係数多項式 \( p \) が存在して \( B = p(A) \) が成り立つ。したがって、\( A \) と可換な任意の行列は \( B \) とも可換である。
(c) \(\operatorname{range} A = \operatorname{range} B\) であるため、\(\operatorname{rank} A = \operatorname{rank} B\) が成り立つ。
(d) \( A \) が実対称半正定値行列である場合、\( B \) も実対称である。
証明
\( A = U \Phi U^{*} \) と表す。ただし \( U = [U_1\ U_2] \) はユニタリ行列であり、\( U_1 \in M_{n,r} \)、さらに
\Phi = \operatorname{diag}(\lambda_1, \ldots, \lambda_r) \oplus 0_{n-r},
ここで \(\lambda_1, \ldots, \lambda_r\) はすべて正の値である。
次に、
B = U \Phi^{1/k} U^{*},
と定義する。ただし、
\Phi^{1/k} = \operatorname{diag}(\lambda_1^{1/k}, \ldots, \lambda_r^{1/k}) \oplus 0_{n-r}
であり、各要素の \(k\) 乗根は非負のものを取る。このとき \( B \) はエルミートかつ半正定値であり、明らかに \( B^k = A \) が成り立つ。
また、\(\operatorname{range} A = \operatorname{range} B\) は \( U_1 \) の列空間であるため、\(\operatorname{rank} A = \operatorname{rank} B = r\) である。
もし \( A \) が実対称半正定値行列であれば、\( U \) を実直交行列として選ぶことができる。その場合、上の構成により \( B \) も実対称行列となる。
次に、一意性と可換性について述べる。
まず、多項式 \( p \) を
p(\lambda_i) = \lambda_i^{1/k} \quad (i = 1, \ldots, r), \quad \text{および} \quad p(0) = 0 \ (r \lt n)
と定める。このとき、(0.9.11) より \( p \) の係数は実数である。したがって、
p(\Phi) = \Phi^{1/k}, \quad p(A) = p(U \Phi U^{*}) = U p(\Phi) U^{*} = U \Phi^{1/k} U^{*} = B
が成り立ち、(b) が確認できる。
次に、\( C \) を \( C^k = A \) を満たす半正定値エルミート行列とする。このとき、
B = p(A) = p(C^k)
となるので、\( B \) は \( C \) と可換である。定理 4.1.6 により、\( B \) と \( C \) を同時対角化するユニタリ行列 \( V \) が存在する。すなわち、
B = V \Phi_1 V^{*}, \quad C = V \Phi_2 V^{*},
ここで \(\Phi_1, \Phi_2\) は非負の対角行列である。\( B^k = A = C^k \) より、
\Phi_1^k = \Phi_2^k
が成り立つ。非負の実数の非負 \(k\) 乗根は一意であるため、
\Phi_1 = \Phi_2
が従い、したがって \( B = C \) である。
正(半)定値行列 \( A \) の一意な正(半)定値平方根を \( A^{1/2} \) と表し、一般に \( A^{1/k} \) は \( A \) の一意な正(半)定値 \(k\) 乗根を表す。 この一意性に関する結果の応用例については (7.2.P20) を参照せよ。
演習
(1) 上の定理の証明で用いた構成を使って、
\begin{bmatrix} 5 & 4 \\ 4 & 5 \end{bmatrix}^{1/2}
を求めよ。
(2) \( A \) が正定値であるとき、次を示せ:
(A^{1/2})^{-1} = (A^{-1})^{1/2}.
行列解析の総本山

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