5.5.6
観察 5.5.6. 有限次元ベクトル空間におけるノルムの単位球はコンパクトである。これは有界であり、またノルムが常に連続関数であるため閉集合でもあるからである。有限次元の場合、閉かつ有界な集合はコンパクトであるが、この性質は無限次元の場合には必ずしも成り立たない。
コンパクト集合の基本的な性質の一つはワイエルシュトラスの定理である(付録E参照)。すなわち、コンパクト集合上の連続実数値関数は有界であり、その集合上で上限と下限を必ず達成する。このため、コンパクト集合上でのそのような関数については「最大値」や「最小値」と呼ぶのが一般的である。
練習問題. 可算無限の成分を持つベクトル \(x = [x_i]\) からなる複素ベクトル空間 \(\ell^2\) を考える。ここではノルム
\lVert x \rVert_{2} = \left( \sum_{k=1}^{\infty} |x_k|^2 \right)^{1/2}
で定義される。
すべての異なる単位基底ベクトル \(e_k, e_j\)(\(k, j = 1, 2, \ldots\))について、次が成り立つことを示せ:
\lVert e_k - e_j \rVert_{2} = \sqrt{2}
したがって、列 \(e_1, e_2, e_3, \ldots\) の任意の無限部分列もコーシー列にはならず、従って収束部分列も存在しない。これより、\(\ell^2\) の単位球はコンパクトではあり得ないことが結論づけられる。
行列解析の総本山

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