[行列解析4.6.6]命題

4.6.6

命題 4.6.6. \(A \in M_n\)、\(\lambda \geq 0\) を与える。ここで \(\sigma = \sqrt{\lambda} \geq 0\) とし、非零ベクトル \(x\) が存在して \(A \bar{A}x = \lambda x\) を満たすと仮定する。このとき、ある非零ベクトル \(y\) が存在して \(\bar{A}y = \sigma y\) を満たす。

(a) \(\lambda = 0\) の場合、\(\bar{A}\) は特異であり、\(\bar{A}\) の零空間に属する任意の非零ベクトル \(z\) に対して \(y = \bar{z}\) とおくことができる。

(b) \(\lambda \gt 0\) の場合、次が成り立つ:

y = e^{-i\theta} \bar{A}x + e^{i\theta}\sigma x

ただし、\(\theta \in [0, \pi)\) であり、\(\bar{A}x \neq -e^{2i\theta}\sigma x\) を満たす。除外される \(\theta\) の値は高々 1 つである。

(c) \(\lambda\) が \(A \bar{A}\) の固有値として幾何的重複度 1 をもつなら、\(x\) は \(A\) の円固有値 \(e^{2i\theta}\sigma\) に対応する円固有ベクトルであり、\(y = e^{i\theta}x\) が \(\bar{A}y = \sigma y\) を満たす。

証明. (a) \(A \bar{A}x = 0\) ならば、\(A \bar{A}\) は特異である。したがって \(\det(A \bar{A}) = | \det(\bar{A}) |^2 = 0\) となり、\(\bar{A}\) は特異である。よって非零ベクトル \(z\) が存在して \(\bar{A}z = 0\)、すなわち \(Az̄ = 0\) が成り立つ。

(b) \(\sigma \gt 0\) とする。このとき \(\sigma x \neq 0\)。もしベクトル \(\bar{A}x, \sigma x\) が一次従属なら、ある複素数 \(c\) に対して \(\bar{A}x = c\sigma x\) である。もし一次独立なら、任意の複素数 \(c\) に対して \(\bar{A}x \neq c\sigma x\) である。特に、\(\bar{A}x = -e^{2i\theta}\sigma x\) が成り立つのは高々 1 つの \(\theta \in [0, \pi)\) に限られる。したがって、もし \(\theta\) がこの条件を満たさないならば、

\bar{A}y = e^{i\theta}AA\bar{x} + e^{-i\theta}\sigma \bar{A}x 
= e^{i\theta}\lambda x + e^{-i\theta}\sigma \bar{A}x 
= \sigma \bigl( e^{-i\theta}\bar{A}x + e^{i\theta}\sigma x \bigr) = \sigma y

(c) \(A \bar{A}(Ax̄) = A(AĀx) = A(\lambda x) = \lambda (Ax̄)\) なので、\(\lambda\) が幾何的重複度 1 を持つことから、\(Ax̄ = cx\) が成り立つ(ここで \(c=0\) もありうる)。すると、

\lambda x = A \bar{A}x = A(\bar{A}x) = A(cx) = \bar{c}\bar{A}x = |c|^2 x

したがって \(|c| = \sigma\)。ここで \(c = e^{2i\theta}\sigma\) とおくと、\(\bar{A}x = e^{2i\theta}\sigma x\)、さらに \(A(e^{i\theta}x) = \sigma(e^{i\theta}x)\) が成り立つ。

練習問題. \(\sigma \geq 0\) を実数とし、

A = \begin{bmatrix} \sigma & i \\ 0 & \sigma \end{bmatrix}, 
\quad x = \begin{bmatrix} 1 \\ i \end{bmatrix}

とする。このとき、\(x\) は \(A\bar{A}\) の固有値 \(\sigma^2\) に対応する固有ベクトルであるが、\(A\) の円固有ベクトルではないことを説明せよ。さらに \(\sigma = 0\) の場合、標準基底ベクトル \(e_1\) が円固有値 0 に対応する円固有ベクトルであることを確認せよ。また、\(\sigma \gt 0\) の場合、\(y = \bar{A}x + \sigma x\) が円固有値 \(\sigma\) に対応する円固有ベクトルであることを確認せよ。

一般に、非負の固有値 \(\lambda\) に対応する \(A\bar{A}\) の固有ベクトルは、必ずしも \(A\) の円固有ベクトルであるとは限らない。しかし、命題 (4.6.6) の証明は、そのような固有ベクトルを用いて、\(\lambda\) に対応する \(A\) の円固有ベクトルを構成する方法を示している。特に、\(\lambda \gt 0\) が固有値であり、その幾何的重複度が \(g\) の場合、対応する円固有空間は \(g\) 次元の実ベクトル空間となる。そして (4.6.6) の一般化により、\(A\bar{A}\) の固有空間の任意の基底から、対応する円固有空間の基底を構成できる(詳細は (4.6.P16〜P18) を参照)。

次の結果は (1.3.8) の類似である。


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