[行列解析4.4.P1]

4.4.問題1

4.4.P1

行列 \(A \in M_n\) とする。

(a) \(A\) が対称であることと、ランクが同じ行列 \(S \in M_n\) が存在して
\(A = SS^T\) であることは同値であることを示せ。

(b) \(A\) が対称かつユニタリであることと、ユニタリ行列 \(V \in M_n\) が存在して
\(A = VV^T\) であることは同値であることを示せ。

解答例

(a) 対称性と分解 \(A = SS^T\) の同値性(複素数体)

結論:複素数体上で、行列 \(A\) が対称(\(A^T = A\))であることと、ランクが \(\operatorname{rank}(S) = \operatorname{rank}(A)\) となる行列 \(S\) が存在して \(A = SS^T\) であることは同値です。

証明

(⇒)
もし \(A = SS^T\) なら、\((SS^T)^T = SS^T\) より \(A^T = A\) です。

ランクは \(\ker(SS^T) = \ker(S^T)\) から一致します。

(⇐)
複素対称行列 \(A\) に対して、高木分解によりユニタリ行列 \(U\) と非負実対角行列 \(\Sigma\) が存在して
\(A = U \Sigma U^T\)
となります。ここで \(\Sigma^{1/2}\) を平方根対角行列とし、\(S := U \Sigma^{1/2}\) と置けば
\(SS^T = U \Sigma U^T = A\)
かつ \(\operatorname{rank}(S) = \operatorname{rank}(A)\) です。

(b) 対称かつユニタリ ⇔ \(A = VV^T\)(V ユニタリ)

結論:複素数体上で、行列 \(A\) が対称かつユニタリであることと、ユニタリ行列 \(V\) が存在して \(A = VV^T\) であることは同値です。

証明

(⇒)
高木分解より \(A = U \Sigma U^T\)\(U\) ユニタリ、\(\Sigma\) 非負実対角)。

ユニタリ行列の特異値はすべて 1 なので \(\Sigma = I\)、よって \(A = UU^T\)

(⇐)
\(A = VV^T\)\(V\) ユニタリなら、\((VV^T)^T = VV^T\) で対称性が成り立ちます。

また
\(A A^* = VV^T \overline{V} V^* = V (V^T \overline{V}) V^* = V I V^* = I\)
よりユニタリ性も成立します。

補足

(a) は高木分解を使って平方根を取ることで \(SS^T\) 形にできること、(b) はその特別ケースで特異値がすべて 1 になるため \(VV^T\) 形になることを示しています。

成分を実数体に限定した場合、(a) は「半正定値」に限って成立し、(b) は一般には成立しません(実直交 \(V\) は常に \(VV^T=I\)です)。


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