[行列解析4.0.6]例

4.0.6

例 4.0.6.

行列 \(A = [a_{ij}] \in M_n(\mathbb{R})\) を考え、実二重線形形式を定義する:

Q(x, y) = y^T A x = \sum_{i,j=1}^{n} a_{ij} y_i x_j , \quad x, y \in \mathbb{R}^n

これは \(A = I\) の場合、通常の内積に帰着する。全ての \(x, y\) について \(Q(x, y) = Q(y, x)\) としたい場合、必要十分条件は \(a_{ij} = a_{ji}\) が全ての \(i,j = 1,\dots,n\) で成り立つことである。証明のためには、\(x = e_j\)、\(y = e_i\) とおけば、\(Q(e_j, e_i) = a_{ij}\)、\(Q(e_i, e_j) = a_{ji}\) となることに注意すれば十分である。したがって、対称実二重線形形式は自然に対称実行列に対応する。

次に、行列 \(A = [a_{ij}] \in M_n\) を実または複素行列とし、複素形式を考える:

H(x, y) = y^* A x = \sum_{i,j=1}^{n} a_{ij} \bar{y_i} x_j , \quad x, y \in \mathbb{C}^n

これは (4.0.7) と同様に、\(A = I\) の場合には通常の内積に帰着する。この形式はもはや二重線形形式ではなく、第一変数に関しては線形、第二変数に関しては共役線形であり、\(H(ax, by) = a \bar{b} H(x, y)\) が成り立つ。このような形式を半線形形式(sesquilinear)と呼ぶ。全ての \(x, y\) について \(H(x, y) = H(y, x)\) としたい場合、前の場合と同様に、必要十分条件は \(a_{ij} = \bar{a_{ji}}\)、すなわち \(A = \bar{A}^T = A^*\) が成り立つことであり、\(A\) はエルミート行列でなければならない。

n×n 複素エルミート行列のクラスは、多くの点で n×n 実対称行列の自然な一般化である。もちろん、実エルミート行列は実対称行列である。複素非実対称行列のクラスも興味深いが、実対称行列の多くの重要な性質を持たない。本章では複素エルミート行列および対称行列を研究し、実対称行列の場合には特化して示す。


参考:Matrix Analysis:Second Edition ISBN 0-521-30587-X.(当サイトは公式と無関係です)

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