[行列解析3.3.P1]

3.3 問題1

問題

\( A, B \in M_3 \) が冪零行列であるとする。

このとき、\( A \) と \( B \) が相似であることと、両者が同じ最小多項式をもつことが同値であることを示せ。

この命題は \( M_4 \) でも成り立つか?

解答例

\(M_3\) の冪零の場合

冪零行列のジョルダン標準形は、固有値がすべて \(0\) のジョルダンブロックの直和であり、最小多項式は最大ブロックサイズで決まる \(x^m\)(ここで \(m\) は最大ジョルダンブロックの大きさ)になる。

\(3\times 3\) の冪零で取りうるジョルダン型はちょうど次の3つのみ。

  • 型 \([1,1,1]\)(零行列):最小多項式は \(x\)。
  • 型 \([2,1]\):最小多項式は \(x^2\)。
  • 型 \([3]\):最小多項式は \(x^3\)。

ここで重要なのは、\(3\times 3\) の冪零では「最小多項式 \(x^m\)」が「ジョルダン型」を一意に決めること。

実際、

  • \(\mu_A(x)=x\) なら \(A=0\)(型 \([1,1,1]\))、
  • \(\mu_A(x)=x^2\) なら型 \([2,1]\)、
  • \(\mu_A(x)=x^3\) なら型 \([3]\)。

冪零行列はジョルダン型(=同値類)で相似が完全に分類されるため、最小多項式が一致することはジョルダン型の一致を意味し、したがって相似となる。

逆向き(相似なら最小多項式が一致)は一般に真なので、同値性が示せる。

結論: \(M_3\) の冪零では「相似 ⇔ 最小多項式が同じ」は成り立つ。

\(M_4\) ではどうか

\(4\times 4\) の冪零では、最小多項式が同じでもジョルダン型が一致しない場合がある。

典型例:

\(N_1 = J_2(0)\oplus J_2(0)\),

ここで \(J_2(0)=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}\)。
\(N_2 = J_2(0)\oplus J_1(0)\oplus J_1(0)\)(すなわち \(J_2(0)\) に \(1\times 1\) の零ブロックを2つ直和したもの)。

いずれも最大ブロックサイズは 2 なので最小多項式は \(x^2\)。

しかし相似ではない。

例えば階数で区別できる:
\(\operatorname{rank}(J_2(0))=1\) なので \(\operatorname{rank}(N_1)=1+1=2\)。
一方 \(\operatorname{rank}(N_2)=1+0+0=1\)。

相似なら階数は一致するはずだが一致しないので、相似ではない。

それでも最小多項式は両者とも \(x^2\) で一致している。

結論: \(M_4\) では命題は成り立たない(反例あり)。

まとめ

  • \(M_3\) の冪零行列では、相似であることと最小多項式が同じであることは同値。
  • \(M_4\) では同値でない。最小多項式が \(x^2\) で一致しても、ジョルダン型 \([2,2]\) と \([2,1,1]\) のように相似でない例が存在する。

参考:Matrix Analysis:Second Edition ISBN 0-521-30587-X.(当サイトは公式と無関係です)

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