[行列解析3.2.5]収束行列とべき有界行列

3.2.5

3.2.5 収束行列とべき有界行列。

\( A \in M_n \) が収束行列(convergent)であるとは、各成分が \( m \to \infty \) のとき \( A^m \) が 0 に収束することをいう。

また、\( A \) がべき有界(power bounded)であるとは、族 \(\{ A^m : m = 1, 2, \ldots \}\) のすべての成分が複素数体 \( \mathbb{C} \) の有界集合に含まれることをいう。

収束行列は常にべき有界である。

単位行列は収束しないがべき有界な行列の例である。

収束行列は数値線形代数におけるアルゴリズム解析において重要な役割を果たす。

対角行列(したがって対角化可能行列も)は、その固有値がすべて絶対値 1 未満であるとき、かつそのときに限り収束する。

同じことは非対角化可能行列にも成り立つが、この結論に至るには注意深い解析が必要である。

いま \( A = SJ_A S^{-1} \) を \( A \) のジョルダン標準形とすると、

A^m = S J_A^m S^{-1}

が成り立つ。

したがって \( m \to \infty \) のとき \( A^m \to 0 \) となるのは、\( J_A^m \to 0 \) となる場合に限る。

\( J_A \) はジョルダンブロックの直和なので、1 つのジョルダンブロックの累乗の挙動を考えれば十分である。

1×1 ブロックの場合、

J_1(\lambda)^m = [\lambda^m] \to 0 \quad (m \to \infty)

となるのは \(|\lambda| \lt 1\) のときに限る。サイズ 2 以上のブロックの場合、二項定理を用いて

J_k(\lambda)^m = (\lambda I_k + J_k(0))^m

を計算できる。

ここで \( J_k(0)^m = 0 \) (ただし \( m \geq k \))なので、

J_k(\lambda)^m = \sum_{j=0}^{m} \binom{m}{m-j} \lambda^{m-j} J_k(0)^j
= \sum_{j=0}^{k-1} \binom{m}{m-j} \lambda^{m-j} J_k(0)^j \quad (m \geq k)

となる。

\( J_k(\lambda)^m \) の対角成分はすべて \( \lambda^m \) なので、\( J_k(\lambda)^m \to 0 \) ならば \(\lambda^m \to 0\) であり、これは \(|\lambda| \lt 1\) を意味する。

逆に \(|\lambda| \lt 1\) ならば、各 \( j = 0,1,2,\ldots,k-1 \) について

\binom{m}{m-j} \lambda^{m-j} \to 0 \quad (m \to \infty)

を示せばよい。

ここで \(\lambda = 0\) または \( j = 0 \) の場合は自明なので、\(0 \lt |\lambda| \lt 1\) かつ \( j \geq 1 \) と仮定して計算すると、

(3.2.5.1)
\begin{align}
&\left|\binom{m}{m-j} \lambda^{m-j}\right| \notag \\
&= \left|\frac{m(m-1)(m-2)\cdots(m-j+1)\lambda^m}{j! \lambda^j}\right| \notag \\
&\leq \frac{m^j |\lambda|^m}{j! |\lambda|^j} \notag
\end{align}

を得る。

したがって \( m^j |\lambda|^m \to 0 \) を示せば十分である。

これを確認する 1 つの方法は、対数を取って

\( j \log m + m \log |\lambda| \to -\infty \quad (m \to \infty) \)

となることに注目することである。これは \(\log|\lambda| \lt 0\) であり、かつロピタルの定理により \((\log m)/m \to 0\) となることから従う。

ジョルダン標準形に依存しない別の方法については (5.6.12) を参照されたい。

次にべき有界の場合を考えると、単位円上の固有値について調べる必要がある。

1×1 ブロックで \(|\lambda| = 1\) の場合、

J_1(\lambda)^m = [\lambda^m]

は \( m \to \infty \) のとき有界のままである。

しかし、(3.2.5.1) の恒等式から、サイズ \( k \geq 2 \) のブロックでは、\(|\lambda| = 1\) の場合に上超対角成分が有界にとどまらないことが分かる。

以上の観察を次の定理にまとめる。


参考:Matrix Analysis:Second Edition ISBN 0-521-30587-X.(当サイトは公式と無関係です)

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