0.1.2 ベクトル空間
体 \( \mathbb{F} \) 上のベクトル空間 \( V \) は、以下の性質を持つ集合です:
- 「加法」という二項演算の下で閉じており、加法は結合的・可換的です。
- 加法における単位元(ゼロベクトル、記号 \( 0 \))と加法の逆元を持ちます。
- スカラー体 \( \mathbb{F} \) の元によるスカラー倍にも閉じています。
すべての \( a, b \in \mathbb{F} \)、および \( x, y \in V \) に対して、次の性質が成り立ちます:
a(x + y) = ax + ay
(a + b)x = ax + bx
a(bx) = (ab)x
ex = x
ここで \( e \) は \( \mathbb{F} \) における乗法の単位元です。
体 \( \mathbb{F} \) と正の整数 \( n \) が与えられたとき、成分が \( \mathbb{F} \) に属する \( n \) 個のタプル全体の集合 \( \mathbb{F}^n \) は、成分ごとの加法を通じて \( \mathbb{F} \) 上のベクトル空間を形成します。慣例として、\( \mathbb{F}^n \) の要素は常に列ベクトルとして表され、しばしば n-ベクトル と呼ばれます。
特に \( \mathbb{R}^n \) や \( \mathbb{C}^n \) はこの書籍で扱う基本的なベクトル空間です。\( \mathbb{R}^n \) は実ベクトル空間(実数体上のベクトル空間)であり、\( \mathbb{C}^n \) は実ベクトル空間であると同時に複素ベクトル空間(複素数体上のベクトル空間)でもあります。
また、実係数または複素係数の多項式全体の集合(次数に制限がある場合や無制限の場合)、および実数値または複素数値の関数(定義域が \( \mathbb{R} \) または \( \mathbb{C} \) の部分集合)の集合も、通常の関数の加法とスカラー倍を用いることで、実または複素ベクトル空間の例となります。
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