8.5.4 補題:対角成分が正の既約非負行列は原始行列である
もし \( A \in M_n \) が既約で非負行列であり、かつその主対角成分がすべて正であるならば、\( A^{n-1} \gt 0 \) である。したがって、\( A \) は原始行列である。
証明
すべての主対角成分が正であると仮定する。すなわち、
\alpha = \min\{ a_{11}, a_{22}, \ldots, a_{nn} \} \gt 0
とおく。また、次のように定義する。
B = A - \operatorname{diag}(a_{11}, a_{22}, \ldots, a_{nn})
このとき \( B \) は非負であり、\( A \) が既約であるため \( B \) も既約である。また、
A \ge \alpha I + B = \alpha \bigl( I + \tfrac{1}{\alpha} B \bigr)
が成り立つ。補題 (8.4.1) により次が従う。
A^{n-1} \ge \alpha^{\,n-1} \bigl( I + \tfrac{1}{\alpha} B \bigr)^{n-1} \gt 0
したがって、\( A^{n-1} \) のすべての成分は正であり、\( A \) は原始行列である。
演習
もし \( A \in M_n \) が非負行列で、かつ主対角成分がすべて正であるとする。また、\( A^m \) の \( (i, j) \) 成分が正であると仮定する。このとき、任意の整数 \( p \ge 1 \) に対して、\( A^{m+p} \) の \( (i, j) \) 成分も正であることを説明せよ。
なお、既約な非負行列が冪によって既約でなくなることはあり得るが、非負で原始的な行列のすべての冪は原始行列である。
行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。


コメント