8.4.4 定理(ペロン–フロベニウスの定理)
定理 8.4.4(ペロン–フロベニウスの定理)
\( A \in M_n \) が既約で非負行列であり、かつ \( n \ge 2 \) であるとする。このとき、次が成り立つ。
(a) \( \rho(A) \gt 0 \)
(b) \( \rho(A) \) は \( A \) の代数的に単純な固有値である。
(c) 実ベクトル \( x = [x_i] \) がただ一つ存在して、\( A x = \rho(A)x \) かつ \( x_1 + \cdots + x_n = 1 \) を満たす。このベクトル \( x \) は正である。
(d) 実ベクトル \( y = [y_i] \) がただ一つ存在して、\( y^T A = \rho(A) y^T \) かつ \( x_1 y_1 + \cdots + x_n y_n = 1 \) を満たす。このベクトル \( y \) も正である。
証明
(a) 系 8.1.25 より、既約性よりも弱い条件のもとでも \( \rho(A) \gt 0 \) が成り立つことが示されている。
(b) 仮に \( \rho(A) \) が重複固有値であると仮定すると、式 (8.4.2) より \( \rho(A) + 1 = \rho(I + A) \) も重複固有値となる。したがって、正の行列 \( (I + A)^{n-1} \) に対して \( (1 + \rho(A))^{n-1} = \rho((I + A)^{n-1}) \) も重複固有値となることになるが、これは (8.2.8(b)) に反する。
(c) 定理 8.3.1 より、非負かつ零でないベクトル \( x \) が存在して \( A x = \rho(A)x \) を満たす。このとき、
(I + A)^{n-1}x = (\rho(A) + 1)^{n-1}x
が成り立つ。さらに、(8.4.1) より \( (I + A)^{n-1} \) は正行列であるので、(8.1.14) によって \( (I + A)^{n-1}x \)、したがって
x = (\rho(A) + 1)^{1-n}(I + A)^{n-1}x
も正であることがわかる。もし正規化条件 \( e^T x = 1 \) を課せば、(b) によりこの \( x \) は一意である。
(d) これは (c) を \( A^T \) に適用することで従う。
上の定理により、既約で非負な行列 \( A \) のペロン根に対応する左・右の固有空間はいずれも1次元であることが保証される。(8.4.4(c)) のベクトル \( x \) は \( A \) の右ペロンベクトルであり、(8.4.4(d)) のベクトル \( y \) は左ペロンベクトルである。
定理 8.4.4(c–d) により、(8.1.30–33) および (8.3.4–5) の結果は既約な非負行列にも適用できる。特に重要なのは、スペクトル半径の変分的特徴付け (8.1.32) である。これらの観察は、(8.1.18) の拡張において重要な役割を果たす。
行列解析の総本山


  
  
  
  
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