[行列解析7.7.8]補題:半正定値特異行列と縮小列の極限

7.7.8 補題:半正定値特異行列と縮小列の極限

この補題では、特異な半正定値行列に小さな正の定数を加えることで正定値行列を得る過程と、その平方根の極限挙動、さらに縮小(contraction)行列列の収束性について述べる。

補題7.7.8.\( A \in M_n \) を半正定値かつ特異な行列とする。また、各 \( k = 1, 2, \ldots \) に対して

A_k = A + k^{-1} I_n

と定める。さらに各 \( k = 1, 2, \ldots \) に対して \( X_k \in M_{m,n} \) を縮小(contraction)行列とする。このとき次が成り立つ。

(a) 各 \( A_k \) は正定値であり、かつ

\lim_{k \to \infty} A_k^{1/2} = A^{1/2}

が成り立つ。

(b) 正の整数列 \( k_i \to \infty \) が存在し、

X = \lim_{i \to \infty} X_{k_i}

が存在し、\( X \) は縮小である。

証明

(a) \( r = \operatorname{rank} A \) とし、\( A \) の正の固有値を \( \lambda_1, \ldots, \lambda_r \) とする。すると、\( A \) はスペクトル分解

A = U \left( \operatorname{diag}(\lambda_1, \ldots, \lambda_r) \oplus 0_{n-r} \right) U^{*}

をもつ。平方根関数が区間 \([0, \infty)\) 上で連続であることから、

A_k^{1/2}
= U \left(
\operatorname{diag}\left( (\lambda_1 + k^{-1})^{1/2}, \ldots, (\lambda_r + k^{-1})^{1/2} \right)
\oplus k^{-1/2} I_{n-r}
\right) U^{*}
\to
U \left(
\operatorname{diag}(\lambda_1^{1/2}, \ldots, \lambda_r^{1/2}) \oplus 0_{n-r}
\right) U^{*}
= A^{1/2}

が \( k \to \infty \) のとき成立する。

(b) \( B = [b_{ij}] = [b_1 \ \ldots \ b_n] \in M_{m,n} \) が縮小であるとする。このとき各成分 \( b_{ij} \) について次が成り立つ。

|b_{ij}|^2
\le \| b_j \|_2^2
= \| B e_j \|_2^2
= e_j^{T} B^{*} B e_j
\le \lambda_{\max}(B^{*}B) \| e_j \|_2^2
= \sigma_1(B)^2
\le 1

したがって、与えられた縮小列 \( \{ X_k \} \) は \( M_{m,n} \) において有界列である。よって、ある部分列 \( \{ X_{k_i} \} \) が存在して

X_{k_i} \to X \quad (i \to \infty)

が成り立つ。定理2.6.4より、

\sigma_1(X) = \lim_{i \to \infty} \sigma_1(X_{k_i}) \le 1

であるから、\( X \) もまた縮小である。


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