[行列解析3.5.3]定理

3.5.3

定理 3.5.3.

\( A \in M_n \) とする。このとき次が成り立つ:

(a) \( L \) が正則となるLU分解を \( A \) が持つのは、ちょうど \( A \) が行包含性 (row inclusion property)を持つ場合に限る。すなわち、各 \( i = 1, \ldots, n-1 \) に対して、部分行列 \( A[\{i+1\}; \{1,\ldots,i\}] \) は \( A[\{1,\ldots,i\}] \) の行の線形結合である。

(b) \( U \) が正則となるLU分解を \( A \) が持つのは、ちょうど \( A \) が列包含性 (column inclusion property)を持つ場合に限る。すなわち、各 \( j = 1, \ldots, n-1 \) に対して、部分行列 \( A[\{1,\ldots,j\}; \{j+1\}] \) は \( A[\{1,\ldots,j\}] \) の列の線形結合である。

証明.

\( A = LU \) ならば

A[\{1,\ldots,i+1\}] = L[\{1,\ldots,i+1\}] U[\{1,\ldots,i+1\}]

が成り立つ。したがって行包含性が必要であることを確かめるには、分割表示 (3.5.2) において \( i = k = n-1 \) を取れば十分である。\( L \) は正則かつ三角行列であるから、\( L_{11} \) も正則である。よって

A_{21} = L_{21}U_{11} = L_{21}L_{11}^{-1}L_{11}U_{11} = (L_{21}L_{11}^{-1})A_{11}

が成り立ち、行包含性が確認できる。

逆に、もし \( A \) が行包含性を持つならば、次のように帰納的に \( L \) が正則なLU分解を構成できる(\( n=1,2 \) の場合は容易に確かめられる)。仮に \( A_{11} = L_{11}U_{11} \) であり、\( L_{11} \) は正則で、かつ行ベクトル \( A_{21} \) が \( A_{11} \) の行の線形結合であるとする。このとき、あるベクトル \( y \) が存在して

A_{21} = y^T A_{11} = y^T L_{11}U_{11}

と書ける。ここで

U_{12} = L_{11}^{-1}A_{12},\quad L_{21} = y^T L_{11},\quad L_{22} = 1,\quad U_{22} = A_{22} - L_{21}U_{12}

とおけば、\( L \) が正則なLU分解を得る。

列包含性に関する主張は、\( A^T \) のLU分解を考えれば従う。

演習.

\( J_n \in M_n \) を、すべての成分が1である行列とする。\( L \) が単位下三角行列となるLU分解を求めよ。この分解を用いれば、

J_n = J_n^T = U^T L^T

が成り立ち、これにより \( J_n \) のLU分解において単位上三角行列を因子とするものが得られる。

演習.

行包含性は、次の形式的に強い条件と同値であることを示せ:各 \( i = 1,\ldots,n-1 \) に対して、部分行列 \( A[\{i+1,\ldots,n\}; \{1,\ldots,i\}] \) の任意の行は、\( A[\{1,\ldots,i\}] \) の行の線形結合である。このとき列包含性に対応する主張は何か?

もし \( A \in M_n \)、\(\mathrm{rank}(A) = k\)、かつ \(\det A[\{1,\ldots,j\}] \neq 0\) (\( j=1,\ldots,k \))ならば、\( A \) は行包含性および列包含性をともに持つ。(3.5.3) より次の結果が導かれる。


参考:Matrix Analysis:Second Edition ISBN 0-521-30587-X.(当サイトは公式と無関係です)

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