7.8.19 定理(オストロフスキー=タウスキーの不等式)
\( H, K \in M_n \) をエルミート行列とし、\( A = H + iK \) とする。もし \( H \) が正定値であるならば、次の不等式が成り立つ。
(7.8.20)
\det H \le \lvert \det(H + iK) \rvert = \lvert \det A \rvert
この等号が成り立つのは \( K = 0 \) のとき、すなわち \( A \) がエルミート行列のときに限る。
証明
\( A = H(I + iH^{-1}K) \) であるから、式 (7.8.20) は次の不等式と同値である。
\lvert \det(I + iH^{-1}K) \rvert \ge 1
系 7.6.2(a) より、\( H^{-1}K \) は対角化可能であり、実固有値 \( \lambda_1, \ldots, \lambda_n \) をもつ。したがって、
\lvert \det(I + iH^{-1}K) \rvert
= \prod_{j=1}^{n} \lvert 1 + i\lambda_j \rvert
ここで、任意の実数 \(\lambda\) に対して
\lvert 1 + i\lambda \rvert^2 = 1 + \lambda^2 \ge 1
が成り立ち、等号が成立するのは \(\lambda = 0\) のときに限る。よって、不等式 (7.8.20) が等号となるのは、
H^{-1}K = 0 \iff K = 0 \iff A = H
である。□
なお、次に示す正定値行列の和に関する不等式は、古典的なスカラーの不等式から導かれる結果である。
行列解析の総本山

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