拡張不等式を使えば行列でも不等式を作ることができます。
実は、定義を少し改良すれば、複素数でも使える拡張不等式は行列(一般的には環)においても適用することができます。ここでは、行列でも使える拡張不等式の定義とその使用例を示します。
行列でも使える拡張不等式の定義
行列(正方行列)でも使える拡張不等式を定義するためには、複素数でも使える拡張不等式と同様にポジティブ集合の定義が前提として必要です。
拡張不等式を行列に適用するために、複素数の時とは違う下記の2点に特に注意する必要があります。
- 行列にはゼロ以外の零因子が存在する。
- 行列は非可換である。
複素数の場合は、ゼロのみがゼロ因子であるため、方向としてゼロ以外という制約をつけていました。
行列において方向はゼロ以外の行列とせず、代わりに正則な行列という制約に置き換えます。すなわち、逆元が存在する方向でのみで比較をを考えます。
そして一般に行列は非可換ですから、掛け算の順序についても慎重に扱う必要がでてきます。
また行列は正方行列に限定して考えると、複素数と行列には次のような対応があります。
- 実数 ーーー 対称行列
- 複素数 ーーー エルミート行列
- 符号 ーーー 直行行列
- 複素数の符号(向き) ーーー ユニタリ行列
- 正の実数 ーーー 正定値行列
正定値行列
行列におけるポジティブ集合の主役は、正定値行列です。
正定値行列の定義は、簡単にいうと固有値がすべて正の実数である行列ということです。