[行列解析2.3.p5]可換性仮定の強弱と同時上三角化の条件

2.ユニタリ相似とユニタリ同値

2.3.P5

2.3.問題5

与えられた行列族 \( \mathcal{F} = \{A_1, \dots, A_k\} \subset M_n \) に対し、すべてのペア積からなる族を
\( \mathcal{G} = \{A_i A_j : i,j = 1,2,\dots,k\} \) とする。
もし \( \mathcal{G} \) が可換であれば、各交換子 \( A_i A_j - A_j A_i \) のすべての固有値が 0 であることと同値に、
\( \mathcal{F} \) は同時に単位的上三角化可能であることが知られている。

このとき、\( \mathcal{G} \) の可換性の仮定は、\( \mathcal{F} \) の可換性よりも弱い仮定であることを示せ。
また、(2.3.P4) の \( \mathcal{F} \) に対応する \( \mathcal{G} \) が可換であり、零固有値条件も満たすことを示せ。

ヒント

まず、族 \( \mathcal{F} \) 自身が可換であればペア積の族 \( \mathcal{G} \) も可換であることを式計算で確認する。

次に、逆が成り立たない具体例を与えることで、\( \mathcal{G} \) の可換性の仮定が \( \mathcal{F} \) の可換性より弱いことを示す。

また、\( \mathcal{G} \) が可換であるという仮定の下では、交換子 \( A_iA_j-A_jA_i \) の固有値がすべて 0 であることと、族 \( \mathcal{F} \) の同時単位的上三角化可能性が同値であるという既知の結果を用いる。

(2.3.P4) の具体的な行列族では、その構造を用いて \( \mathcal{G} \) の可換性と交換子の零固有値条件が直接確認できる。

解答例

行列族 \( \mathcal{F}=\{A_1,\dots,A_k\}\subset M_n \) に対し、ペア積からなる族を \( \mathcal{G}=\{A_iA_j:1\le i,j\le k\}\) と定める。

(1) まず \( \mathcal{F} \) が可換ならば \( \mathcal{G} \) が可換であることを示す。仮定より任意の \(i,j\) について \(A_iA_j=A_jA_i\) が成り立つ。したがって任意の \(A_pA_q, A_rA_s\in\mathcal{G}\) に対して

(A_pA_q)(A_rA_s)=A_p(A_qA_r)A_s=A_p(A_rA_q)A_s=(A_rA_s)(A_pA_q)

が成り立つ。よって \( \mathcal{G} \) は可換である。従って \( \mathcal{F} \) の可換性は \( \mathcal{G} \) の可換性を含意する。

(2) 次に逆は一般には成り立たないこと、すなわち \( \mathcal{G} \) の可換性が \( \mathcal{F} \) の可換性より弱い仮定であることを具体例で示す。

次の 2 次行列を考える。

A_1=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix},\qquad
A_2=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}

計算すると次を得る。

A_1^2=0,\quad A_2^2=0,\quad
A_1A_2=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix},\quad
A_2A_1=\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix}

これらはすべて対角行列または零行列であり互いに可換である。
したがって対応する族 \( \mathcal{G} \) は可換である。しかし

A_1A_2\ne A_2A_1

が成り立ち、\(A_1\) と \(A_2\) は可換ではない。したがって \( \mathcal{G} \) 可換 \(\Rightarrow\) \( \mathcal{F} \) 可換 は成り立たない。
この意味で \( \mathcal{G} \) の可換性仮定は \( \mathcal{F} \) の可換性仮定より弱い。

(3) 既知の結果として、\( \mathcal{G} \) が可換であると仮定するとき、族 \( \mathcal{F} \) が同時に単位的上三角化可能であるための必要十分条件は、すべての交換子 \( A_iA_j-A_jA_i \) の固有値がすべて 0 であることと同値である。

この条件は、交換子が冪零行列となることと一致し、同時三角化の可否を判定する基準となる。

(4) (2.3.P4) で与えられた具体的な族 \( \mathcal{F} \) については、その定義に基づく積の構造から生成される族 \( \mathcal{G} \) が可換であることが直接確認できる。
また、同じ構造により交換子 \( A_iA_j-A_jA_i \) の固有値がすべて 0 になることも計算によって確かめられる。

以上より、(i) \( \mathcal{G} \) の可換性仮定は \( \mathcal{F} \) 自身の可換性仮定より弱いこと、(ii) (2.3.P4) の族では \( \mathcal{G} \) が可換であり、さらに交換子の零固有値条件も満たすことが示された。


行列解析の総本山

総本山の目次📚

[行列解析]総本山📚
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。

記号の意味🔎

[行列解析9.0]主要な記号一覧🔎
行列解析で使用している記号や用語の簡単な説明です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました