2.5.P36
2.5.問題36
任意の \(A \in M_{n}\) に対して、
\begin{bmatrix} A & A^{*} \\ A^{*} & A \end{bmatrix} \in M_{2n} が正規であることを示せ。
したがって、任意の正方行列は正規行列の主小行列になりうる(すなわち、任意の \(A \in M_{n}\) は正規行列への拡大をもつ)。
任意の正方行列はエルミート行列の主小行列になれるか?
ユニタリ行列の主小行列になれるか?
ヒント
正規性は定義に従い \( BB^{*} = B^{*}B \) を直接計算して確かめる。
ブロック行列の積は、各ブロックを通常の行列積として計算すればよい。
解答例
行列 \( B = \begin{bmatrix} A & A^{*} \\ A^{*} & A \end{bmatrix} \) を考える。このとき随伴行列は \( B^{*} = \begin{bmatrix} A^{*} & A \\ A & A^{*} \end{bmatrix} \) である。
まず \( BB^{*} \) を計算する。
BB^{*}
=
\begin{bmatrix}
A & A^{*} \\
A^{*} & A
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
A^{*} & A \\
A & A^{*}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
AA^{*} + A^{*}A & A^{2} + (A^{*})^{2} \\
(A^{*})^{2} + A^{2} & A^{*}A + AA^{*}
\end{bmatrix}
次に \( B^{*}B \) を計算する。
B^{*}B
=
\begin{bmatrix}
A^{*} & A \\
A & A^{*}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
A & A^{*} \\
A^{*} & A
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
A^{*}A + AA^{*} & (A^{*})^{2} + A^{2} \\
A^{2} + (A^{*})^{2} & AA^{*} + A^{*}A
\end{bmatrix}
各ブロックを比較すると、対角成分および非対角成分はいずれも一致している。
したがって \( BB^{*} = B^{*}B \) が成り立ち、\( B \) は正規行列である。
次に、任意の正方行列がエルミート行列の主小行列になれるかを考える。エルミート行列の主小行列は必ずエルミートであるため、一般の \( A \) がエルミートでない場合には不可能である。
同様に、ユニタリ行列の主小行列についても制約がある。
ユニタリ行列の主小行列は一般にノルムやスペクトルに制限を受けるため、任意の正方行列がユニタリ行列の主小行列になることはできない。
任意の正方行列がユニタリ行列の主小行列になることはできない理由
1. ユニタリ行列の基本的制約
ユニタリ行列 (U) は
\( U^{*}U = UU^{*} = I \)
を満たす。これは次を意味する。
- 各列ベクトルは ノルム1
- 異なる列同士は 直交
- 行列としては ノルムを保存する写像
この性質は、行列全体だけでなく、主小行列にも痕跡として残る。
2. 主小行列に現れる不等式(縮小作用)
\(U \in M_{n}\) をユニタリ行列とし、その左上 \(k \times k\) 主小行列を\(A\) とする。
このとき、ブロック分解 \(U = \begin{bmatrix}A & B \\ C & D \end{bmatrix}\) を考えると、
\(U^{*}U = I\) より\(A^{*}A + C^{*}C = I_{k}\)が成り立つ。
ここから重要な事実が従う:
\(A^{*}A \le I_{k}\)、つまり \(A\) は縮小作用素(contraction)であり、
任意の固有値 \(\lambda\) に対して \( |\lambda| \le 1 \) 特に \( |A| \le 1 \) が必ず成り立つ。
3. 「任意の行列」はこの制約を満たさない
一般の正方行列 (A) には、次のようなものが多数存在する。
- 固有値の絶対値が 1 を超える
例:\( \begin{bmatrix} 2 \end{bmatrix} \) - 演算子ノルムが 1 を超える
- 行・列が直交的でない
このような行列は、\(A^{*}A \le I\) を満たさないしたがって、どんなユニタリ行列 \(U\) の主小行列にもなれない
4. まとめ(本質的理由)
ユニタリ行列の主小行列は、「ノルムが 1 以下である」という本質的制約を必ず満たす。したがって、
- ノルムや固有値が大きい行列
- 一般の任意の正方行列
は、ユニタリ行列の主小行列として現れることはできない。
- 正規行列
→ 主小行列への制約が弱いため、
任意の正方行列を主小行列として含む拡大が可能(先の問題) - エルミート行列
→ 主小行列は必ずエルミート
→ 任意の行列は不可能 - ユニタリ行列
→ 主小行列は必ず縮小作用素
→ 任意の行列は不可能
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