2.4.P10
2.4.問題10
行列 \( A, B \in \mathbb{M}_n \) が同じ特性多項式(従って同じ固有値)を持つことは、すべての \( k=1,2,\ldots,n \) について
\mathrm{tr}\, A^k = \mathrm{tr}\, B^k
が成立することと同値である。
これより、\( A \) が零行列的(nilpotent)であることはすべての \( k \) について
\mathrm{tr}\, A^k = 0
であることと同値である。
ヒント
行列 \( A \) のべき乗のトレース \( \mathrm{tr}\, A^k \) は、\( A \) の固有値 \( \lambda_1, \dots, \lambda_n \) の \( k \) 次モーメント \( \mu_k = \sum \lambda_i^k \) に一致する。
ニュートンの恒等式によれば、これらのモーメント \( \mu_1, \dots, \mu_n \) は固有多項式の係数を一意に決定する。
したがって、すべての \( k \) についてトレースが一致することは固有多項式が一致することと同値であり、特にすべてのトレースが \( 0 \) であることは、すべての固有値が \( 0 \) であること、すなわちべき零性(nilpotency)を意味する。
解答例
行列 \( A \) の固有値を \( \lambda_1, \dots, \lambda_n \)、行列 \( B \) の固有値を \( \mu_1, \dots, \mu_n \) とする。
行列のべき乗のトレースについて、次の関係が成り立つ。
\mathrm{tr}\, A^k = \sum_{i=1}^n \lambda_i^k, \quad \mathrm{tr}\, B^k = \sum_{i=1}^n \mu_i^kニュートンの恒等式により、固有多項式 \( p(t) = t^n + a_{n-1} t^{n-1} + \dots + a_0 \) の係数 \( a_j \) は、べき乗和(モーメント) \( \mu_k = \sum \lambda_i^k \) の関数として一意に定まる。
したがって、\( k = 1, \dots, n \) について \( \mathrm{tr}\, A^k = \mathrm{tr}\, B^k \) が成立すれば、\( A \) と \( B \) の固有多項式は完全に一致し、その零点である固有値の集合(重複を含めたスペクトル)も一致する。
次に、\( A \) がべき零行列であることの判定について考える。\( A \) がべき零行列であるための必要十分条件は、すべての固有値が \( 0 \) であること、すなわち固有多項式が \( p_A(t) = t^n \) となることである。これは係数が \( a_{n-1} = a_{n-2} = \dots = a_0 = 0 \) であることと言い換えられる。
ニュートンの恒等式を \( k = 1 \) から順に適用すると、
\begin{aligned}
1 a_{n-1} + \mu_1 &= 0 \\
2 a_{n-2} + a_{n-1} \mu_1 + \mu_2 &= 0 \\
&\vdots
\end{aligned}ここで、すべての \( k \) について \( \mu_k = \mathrm{tr}\, A^k = 0 \) と仮定すると、上式より逐次的に \( a_{n-1} = 0, a_{n-2} = 0, \dots, a_0 = 0 \) が導かれる。
逆に、\( A \) がべき零行列であれば、すべての固有値が \( 0 \) であるため、明らかに任意の \( k \geq 1 \) に対して \( \mathrm{tr}\, A^k = \sum 0^k = 0 \) が成り立つ。
以上により、\( A \) がべき零行列であることと、すべての \( k = 1, \dots, n \) について \( \mathrm{tr}\, A^k = 0 \) であることは同値である。
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