2.3.P7
2.3.問題7
ある行列 \( A \in M_n \) が 複素直交行列と上三角行列を用いて、\( A = Q \Lambda Q^{\top} \) と書けるとする。
ここで \( Q \in M_n \) は複素直交行列、
\( \Lambda \in M_n \) は上三角行列である。
このとき\(A\)に、\( x^{\top} x \neq 0 \) を満たす固有ベクトル \( x \in \mathbb{C}^n \) が、少なくとも1つ存在することを示せ。
次に以下の例を考えよ:
A =
\begin{bmatrix}
1 & i \\
i & -1
\end{bmatrix}
この例を使って、すべての \( A \in M_n \) が複素直交相似変換で上三角化できるわけではないことを示せ。
ヒント
複素直交行列 \( Q \) は \( Q^{\top}Q = I \) を満たすため、変換前後で量 \( x^{\top}x \) が保存される。
上三角行列 \( \Lambda \) の対角成分は \( A \) の固有値になるので、対応する標準基底を \( Q \) で写せば固有ベクトルが得られる。
このとき \( x^{\top}x \neq 0 \) を満たすものが少なくとも1つ存在することを確認する。
また具体例の行列について核ベクトルの性質を調べることで、一般には複素直交相似での上三角化が不可能であることを示す。
解答例
仮定より \( A = Q\Lambda Q^{\top} \) と表され、\( Q^{\top}Q = I \) が成り立つ。
上三角行列 \( \Lambda \) の対角成分は \( A \) の固有値である。いま、\( \Lambda \) の対角成分のうち少なくとも1つを \( \lambda \) とし、標準基底ベクトル \( e_k \) に対して
\Lambda e_k=\lambda e_k
が成り立つ。ここで \( x = Qe_k \) とおくと、
Ax = Q\Lambda Q^{\top}Qe_k = Q\Lambda e_k = \lambda Qe_k = \lambda x
となり、\( x \) は \( A \) の固有ベクトルである。また、
x^{\top}x = (Qe_k)^{\top}(Qe_k)=e_k^{\top}(Q^{\top}Q)e_k=e_k^{\top}e_k=1\neq 0
が成り立つので、\( x^{\top}x \neq 0 \) を満たす固有ベクトルが少なくとも1つ存在する。
次に次の具体例を考える。
A=\begin{bmatrix}
1 & i \\
i & -1
\end{bmatrix}
この特性多項式を計算すると
\det(A-\lambda I)=\lambda^{2}
となり、固有値はすべて 0 である。また
A^{2}=0
が成立するので \( A \) は非零の冪零行列である。
したがって核は一次元であり、\( Ax=0 \) の解は
x=\begin{bmatrix}-i t \\ t\end{bmatrix} \quad (t\neq 0)
と表される。このとき
x^{\top}x = (-it)^{2}+t^{2} = -t^{2}+t^{2}=0
となり、核の任意の非零ベクトルは \( x^{\top}x = 0 \) を満たす。
仮にこの \( A \) が複素直交行列 \( Q \) により上三角行列 \( \Lambda \) へ相似変換されると仮定すると、固有値がすべて 0 であるので \( \Lambda \) は対角成分がすべて 0 の上三角行列となる。
よって対応する固有ベクトル \( x = Qe_k \) に対して \( x^{\top}x \neq 0 \) が成り立つ必要がある。
しかし実際には上で見たように \( Ax=0 \) を満たす任意の非零ベクトルは \( x^{\top}x=0 \) である。これは矛盾である。
したがって、この行列は複素直交相似により上三角化できない。
ゆえに、すべての \( A \in M_n \) が複素直交相似変換で上三角化できるわけではないことが結論される。
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