[行列解析2.1.p8]

2.1.p8

2.1.問題8

\( A \in M_n \) が複素直交行列とは \( A^{\top} A = I \) を満たすときである。

  1. 複素直交行列がユニタリであるための必要十分条件は、それが実行列であることであることを示せ。
  2. \( S =\begin{bmatrix}0 & 1 \\-1 & 0\end{bmatrix}\in M_2(\mathbb{R}) \) とする。
    次の行列:
A(t) = (\cosh t) I + i (\sinh t) S

が任意の \( t \in \mathbb{R} \) に対して複素直交行列であることを示せ。

ただし、\( A(t) \) がユニタリとなるのは \( t = 0 \) のときに限ることも示せ。

双曲線関数の定義
 \cosh t = \dfrac{e^t + e^{-t}}{2} \\
\; \\
 \sinh t = \dfrac{e^t - e^{-t}}{2} 

  • ユニタリ行列の集合とは異なり、複素直交行列の集合は有界ではないこと、したがってコンパクトでもないことを示せ。
  • 同じサイズの複素直交行列の集合は群を成すことを示せ。一方、実直交行列の集合はその部分群であり、コンパクトである。
  • \( A \in M_n \) が複素直交行列ならば、\( |\det A| = 1 \) であることを示せ。特に上記の \( A(t) \) を使って、固有値 \( \lambda \) が \( |\lambda| \ne 1 \) を持つ場合があることを示せ。
  • \( A \in M_n \) が複素直交行列ならば、\( \overline{A}, A^{\top}, A^* \) もまた複素直交行列であり、正則であることを示せ。\( A \) の行(または列)は直交しているか?
  • 対角複素直交行列を特徴づけよ。2.1.P4と比較せよ。
  • \( A \in M_n \) が複素直交かつユニタリであるための必要十分条件は、\( A \) が実直交であることであることを示せ。

解答例

1.複素直交行列

\(A\)を複素直交行列(\( A^{\top} A = I \))でユニタリ行列(\(A^*A=I\))とする。

\( A^{\top} A = I \)から\(A^{-1}=A^{\top}\)であり、
\(A^*A=I\)から\(A^{-1}=A^*\)でもある。
よって、\(A^{\top}=A^*\)の両辺を転置すると\(A=\overline{A}\)。
\(A\)は実行列である。

逆に、\(A\)を複素直交行列(\( A^{\top} A = I \))で実行列(\(A=\overline{A}\))とすると、
\(A^* A={\overline{A}}^{\top} A=A^{\top} A=I\)であるから、\(A\)はユニタリ行列である。

2.複素直交行列\(A(t)\)

A(t) = (\cosh t) I + i (\sinh t) S \\
=\begin{bmatrix}
(\cosh t) & i(\sinh t)\\
-i(\sinh t) & (\cosh t)
\end{bmatrix}

とする。

(a) \(A(t)\)が直交行列である事

計算すれば、\(A(t)^{\top} A(t)=I\)が示せる。

\begin{aligned}
A(t)^{\top} A(t)
&=\begin{bmatrix}
(\cosh t) & -i(\sinh t)\\
i(\sinh t) & (\cosh t)
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
(\cosh t) & i(\sinh t)\\
-i(\sinh t) & (\cosh t)
\end{bmatrix} \\
& =\begin{bmatrix}
(\cosh t)^2-(\sinh t)^2 & 0\\
0 & -(\sinh t)^2+(\cosh t)^2
\end{bmatrix} \\
&=\begin{bmatrix}
1 & 0\\
0 & 1
\end{bmatrix}
\end{aligned}

よって、\(A(t)\)は複素直交行列である。

(b) \(A(t)\)がユニタリ行列なら\(t=0\)である事

\(A(t)\)がユニタリ行列であるためには、\(A(t)\)が実行列でなければならない。

そのためには、\(\sinh t=0\)でなければならないので、\(t=0\)のときに限る。

(c) 成分が有界でない事

\(t→∞\)のとき、\((\cosh t)→\infty\)であるので\(A(t)\)は有界ではない。したがって複素直交行列の集合はコンパクトでもない。

(d) 群をなす事

同じサイズの複素直交行列の集合は、行列の積について群をなす。

\(A,B \in M_n\)を複素直交行列とする。

\((AB)^{\top}(AB)=B^{\top}A^{\top}AB=B^{\top}IB=I\)

よって、\(AB\)も複素直交行列である。

\((A^{-1})^{\top}A^{-1}=(A^{\top})^{-1}A^{-1}=(AA^{\top})^{-1}=I\)

よって、\(A^{-1}\)も複素直交行列である。

(e) \(|\det A|=1\)である事

\(\det A= \det A^{\top}\)より。

\( (\det A)^2= \det A^{\top} \det A = \det I=1 \)

よって、\(|\det A|=1\)である

(f) \( \overline{A}, A^{\top}, A^*\)も複素直交行列で正則である事

\( ( \overline{A})^{\top} \overline{A} = \overline{A^{\top}A}= \overline{I}=I \)

\( ( A^{\top})^{\top} A^{\top} = (AA^{\top})^{\top}= I^{\top}=I \)

\( ( A^*)^{\top} A^* = \overline{A} \overline{A^{\top}}= \overline{I}= I \)

どれも、行列式は0でないので正則である。

(g) 対角複素直交行列の特徴づけ

\( D=\diag(d_{11},d_{22},\cdots, d_{nn}) \in F_n(\mathbb{C})\)を対角複素直交行列とすると、

\(D^{\top}D=I\)より、各\(i\)に対して\(d_{ii}^2=1\)を得る。

また、対角成分が1または-1である行列は対角複素直交行列であるから、

対角複素直交行列は、対角成分は1または-1である行列のみである。

(h) 複素直交かつユニタリである必要十分条件

複素直交行列でもあり、ユニタリ行列である行列は実行列であった。

実直交行列は、複素直交行列でもあり、ユニタリ行列でもあるので、複素直交でかつユニタリである行列である必要十分条件は、実直交行列である事である。


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