定理 2.3.3:可換な行列族のユニタリ三角化
\( M_n \) の非空の可換な行列族 \( F \subseteq M_n \) が与えられたとき、すべての \( A \in F \) に対して \( U^*AU \) が上三角行列となるようなユニタリ行列 \( U \in M_n \) が存在する。
証明
(2.3.1) の証明に立ち返る。証明の各段階で固有ベクトル(およびユニタリ行列)を選択する場面において、(1.3.19) を活用する。つまり、各 \( A \in F \) に共通する単位固有ベクトルを選び、この共通固有ベクトルを最初の列とするユニタリ行列を構成する。この操作によって、行列族 \( F \) のすべての行列が同じ方法でユニタリ相似変換により縮退される。
相似変換は可換性を保つ。また、次のような形の2つの行列
が可換であるならば、ブロック積の計算から \( A_{22} \) と \( B_{22} \) もまた可換であることがわかる。
したがって、(2.3.1) におけるユニタリ行列 \( U \) の構成要素は、可換な行列族のすべてのメンバーに対して同じ方法で選ぶことができる。
注意点
(2.3.1) においては、三角行列 \( T \) の主対角成分(すなわち、縮退の過程で現れる固有値の順序)をあらかじめ指定できるが、(2.3.3) ではそのような指定はできない。縮退の各段階で用いられる共通固有ベクトルは、行列族 \( F \) の各行列に対する何らかの固有値に対応しているが、どの固有値かを指定できるとは限らない。したがって、(1.3.19) によって保証される共通固有ベクトルに従って、固有値をそのまま受け入れる必要がある。
補足:準三角化と準対角化
次の演習問題は、実行列を実数体上の相似変換によって三角形形式に変換しようとする際に、なぜ「準三角行列」や「準対角行列」が現れるのかを説明するものである。これは (0.9.4) に関連する。
演習問題
次の実2×2行列の固有値が \( a \pm ib \) であることを示せ:
もし実行列 \( A \) が非実の固有値をもつ場合、実数体上の相似変換によって \( A \) を上三角行列 \( T \) に変換することは不可能である。なぜなら、\( T \) の主対角成分(すなわち \( A \) の固有値)が非実数となり、実行列として存在し得ないからである。
しかし、\( A \) は常に実直交相似変換によって、実数体上の「準上三角行列」に変換することができる。このとき、非実の共役な固有値対に対応する 2×2 ブロックが現れる。
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