2.5.P52
2.5.問題52
\( A, B \in M_n \) を非特異行列とする。
行列 \( C = ABA^{-1}B^{-1} \) を \( A \) と \( B \) の乗法的交換子(multiplicative commutator)と呼ぶ。
このとき \( C = I \) であることと \( A \) と \( B \) が可換であることは同値である。
\( A \) と \( C \) が正規であり、さらに 0 が \( B \) の固有値の凸包に含まれないと仮定する。
このとき次の Marcus–Thompson 定理の証明のスケッチを詳細化せよ:
スペクトル分解 \( A = U \Lambda U^*, \ C = U M U^* \) をとる。
ただし \(\Lambda = \mathrm{diag}(\lambda_1, \ldots, \lambda_n), \ M = \mathrm{diag}(\mu_1, \ldots, \mu_n)\) である。
また \( B' = U^* B U = [\beta_{ij}] \) とおく。
このとき \(\beta_{ii} \neq 0\) が成り立ち、さらに
M = U^* C U = \Lambda B' \Lambda^{-1} {B'}^{-1} \\ \Rightarrow \ MB' = \Lambda B' \Lambda^{-1} \\ \Rightarrow \ \mu_i \beta_{ii} = \beta_{ii} が成り立つ。
したがって \( M = I \)、すなわち \( C = I \) である。
(2.4.P12(c)) と比較せよ
ヒント
正規行列はユニタリ相似によって同時に対角化できる。
交換子の条件をスペクトル分解の下で書き換え、対角成分に注目することが本質である。
また、0 が固有値の凸包に含まれないという仮定は、対角成分が 0 でないことを保証する。
解答例
まず \( C = ABA^{-1}B^{-1} \) で定まる行列 \( C \) が単位行列であることと、\( A \) と \( B \) が可換であることは定義から直ちに同値である。以下では仮定の下で \( C = I \) を示す。
仮定より \( A \) と \( C \) は正規であるから、あるユニタリ行列 \( U \) により同時に対角化できる。すなわち \( A = U \Lambda U^* \)、\( C = U M U^* \) と書ける。ただし \( \Lambda = \mathrm{diag}(\lambda_1,\ldots,\lambda_n) \)、\( M = \mathrm{diag}(\mu_1,\ldots,\mu_n) \) である。
さらに \( B' = U^* B U = [\beta_{ij}] \) とおく。このとき \( C = ABA^{-1}B^{-1} \) に \( A = U\Lambda U^* \)、\( B = U B' U^* \) を代入すると、
M = U^* C U = \Lambda B' \Lambda^{-1} {B'}^{-1}
が得られる。これを変形すると
M B' = \Lambda B' \Lambda^{-1}
となる。両辺の \( (i,i) \) 成分に注目すると、
\mu_i \beta_{ii} = \beta_{ii}
が従う。
ここで、0 が \( B \) の固有値の凸包に含まれないという仮定より、数値域の性質から \( \beta_{ii} \neq 0 \) がすべての \( i \) について成り立つ。したがって上式から \( \mu_i = 1 \) が従う。
よって \( M = I \) であり、 \( C = U M U^* = I \) が得られる。以上より、仮定の下で \( C = I \)、すなわち \( A \) と \( B \) は可換である。
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