[行列解析1.3.P39]トレース零行列と対角化可能性の関係

1.固有値・固有ベクトル・相似

1.3.P39

1.3.問題39

\(A \in M_n\) が与えられ、かつ \(\mathrm{tr}\,A = 0\) とする。

もし \(A\) が対角化可能であれば、なぜ \(\mathrm{rank}\,A \le 1\) となるのか説明せよ。

さらに、(1.3.5) に示される行列のうち、ランクが 1 でトレースが 0 のものがある。

このことから何が結論できるかを述べよ。

ヒント

行列が対角化可能であるとき、そのトレースは固有値の和に等しいことを用いる。さらに、ランクは非零固有値の個数と密接に関係している点に注目する。また、ランク 1 でトレース 0 の行列が存在する事実から、逆の方向について考える。

解答例

\(A\) が対角化可能であると仮定する。このとき、ある正則行列 \(P\) と対角行列 \(D=\mathrm{diag}(\lambda_1,\dots,\lambda_n)\) が存在して \(A=PDP^{-1}\) と表される。トレースは相似変換で不変であるから、 \(\mathrm{tr}\,A=\mathrm{tr}\,D=\lambda_1+\cdots+\lambda_n\) が成り立つ。

仮定より \(\mathrm{tr}\,A=0\) であるから、固有値の和は 0 である。もし非零固有値が 2 個以上存在すると、それらの和は一般に 0 とはならず、互いに打ち消し合う必要がある。しかし対角化可能である場合、ランクは非零固有値の個数に等しいため、非零固有値が 2 個以上存在すれば \(\mathrm{rank}\,A \ge 2\) となる。したがって、\(\mathrm{tr}\,A=0\) の下で対角化可能であるためには、非零固有値は高々 1 個でなければならず、 \(\mathrm{rank}\,A \le 1\) が従う。

一方、(1.3.5) に示される行列の中には、ランクが 1 であり、かつトレースが 0 であるものが存在する。

\begin{bmatrix}
0 & 0 \\
1 & 0
\end{bmatrix}
\quad\text{と}\quad
\begin{bmatrix}
0 & 0 \\
0 & 0
\end{bmatrix}

このような行列は、上の必要条件 \(\mathrm{rank}\,A \le 1\) を満たしているにもかかわらず、一般には対角化可能とは限らない。

以上より、\(\mathrm{tr}\,A=0\) の行列では、 \(\mathrm{rank}\,A \le 1\) であることは、\(A\) が対角化可能であるための必要条件ではあるが、十分条件ではない、という結論が得られる。


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