定理 1.3.21.
\( F \subset M_n \) を対角化可能な行列族とする。
このとき、\( F \) が可換族であることと、同時対角化可能族であることは同値である。
さらに、任意の \( A_0 \in F \) と、\( A_0 \) の固有値の任意の順序 \( \lambda_1, \ldots, \lambda_n \) に対して、ある正則行列 \( S \in M_n \) が存在し、
S^{-1} A_0 S = \mathrm{diag}(\lambda_1, \ldots, \lambda_n)
かつ、すべての \( B \in F \) に対して \( S^{-1} B S \) は対角行列となる。
証明.
\( F \) が同時対角化可能ならば、先の演習より可換族であることは明らかである。逆を帰納法で示す。\( n = 1 \) の場合は、すべての行列族が可換かつ対角であるので自明である。\( n \ge 2 \) と仮定し、各 \( k = 1, 2, \ldots, n-1 \) に対して、\( k \times k \) の可換な対角化可能行列族は同時対角化可能であると仮定する。
もし \( F \) のすべての行列がスカラー行列であれば自明であるので、次のように仮定してよい。すなわち、ある \( A \in F \) が与えられ、これは \( n \times n \) の対角化可能行列であり、固有値は異なり \(\lambda_1, \lambda_2, \ldots, \lambda_k\) で \( k \ge 2 \)、さらにすべての \( B \in F \) について \( AB = BA \) が成り立ち、かつ各 \( B \) は対角化可能である。
(1.3.12) の議論を用いることで、\( A \) が (1.3.13) の形をしている場合に帰着できる。すべての \( B \in F \) は \( A \) と可換であるので、(0.7.7) より各 \( B \) は (1.3.14) の形をもつ。すなわち、\( B, \hat{B} \in F \) に対して、
B = B_1 \oplus \cdots \oplus B_k, \quad \hat{B} = \hat{B}_1 \oplus \cdots \oplus \hat{B}_k
となり、各 \( B_i, \hat{B}_i \) のサイズは等しく、その大きさは高々 \( n-1 \) である。\( B \) と \( \hat{B} \) の可換性および対角化可能性から、各 \( i = 1, \ldots, k \) について \( B_i \) と \( \hat{B}_i \) も可換かつ対角化可能であることが従う。帰納法の仮定より、適切なサイズの相似変換行列 \( T_1, T_2, \ldots, T_k \) が存在し、各ブロックを同時に対角化する。
したがって、それらの直和 (1.3.15) により \( F \) のすべての行列を対角化できることになる。
よって、ある正則行列 \( T \in M_n \) が存在し、すべての \( B \in F \) に対して \( T^{-1} B T \) が対角行列となる。さらに、
T^{-1} A_0 T = P \, \mathrm{diag}(\lambda_1, \ldots, \lambda_n) \, P^T
となる置換行列 \( P \) が存在する。したがって、
P^T (T^{-1} A_0 T) P = (T P)^{-1} A_0 (T P) = \mathrm{diag}(\lambda_1, \ldots, \lambda_n)
また、すべての \( B \in F \) に対して
(T P)^{-1} B (T P) = P^T (T^{-1} B T) P
は対角行列となる。(0.9.5) より証明が完了する。
備考:
2つの重要な問題は第3章で扱う。(1) \( A, B \in M_n \) が与えられたとき、\( A \) が \( B \) と相似かどうかをどのように判定するか。(2) 固有ベクトルを知らずに行列が対角化可能かどうかをどのように判定するか。
なお、\( AB \) と \( BA \) は必ずしも等しくなく(また、両積が定義されてもサイズが同じとは限らない)、しかしその固有値は可能な限り一致する。実際、\( A \) と \( B \) がともに正方行列であれば、\( AB \) と \( BA \) はまったく同じ固有値をもつ。この事実は簡単だが有用な観察から導かれる。
演習.
\( X \in M_{m,n} \) とする。このとき、次の行列
\begin{pmatrix} I_m & 0 \\ X & I_n \end{pmatrix} \in M_{m+n}
が正則であり、その逆行列が
\begin{pmatrix} I_m & 0 \\ - X & I_n \end{pmatrix}
となることを確認せよ。
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