1.1.P8 「定理 1.1.9」の議論を使って「すべての正方実行列が実固有値を持つ」ことを示そうとした場合、この議論がなぜ成り立たないのかを説明しなさい。
定理 1.1.9 \( A \in M_n \) が与えられているとする。このとき、\( A \) は固有値を持つ。実際、任意のゼロでない \( y \in \mathbb{C}^n \) に対して、次数が高々 \( n - 1 \) の多項式 \( g(t) \) が存在し、\( g(A) y \) は \( A \) の固有ベクトルとなる。
A \in M_n, \quad \exists\, \lambda \in \mathbb{C}, \, v \neq 0 \ \text{such that} \ A v = \lambda v
ここでの重要な点は、定理 1.1.9 が「複素数体 \( \mathbb{C} \) 上」での結果であることです。この定理の証明では、\( A \) の特性多項式が常に \( \mathbb{C} \) で少なくとも1つの根を持つという、代数学の基本定理を用いています。しかし実数体 \( \mathbb{R} \) の場合、特性多項式が実根を持たないことがあります。例えば、行列
\begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}
の特性多項式は \( t^2 + 1 \) であり、その根は \( i \) と \( -i \) で、どちらも実数ではありません。このため、(定理 1.1.9) の議論をそのまま実行列に適用しても、必ずしも実固有値が存在するとは限らないのです。
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